• ”を辞書でひくと“痛みや出血を伴う肛門の病気の総称”と有ります。この“”は数ある外科疾患の中で最も多くみられる病気です。症状は①脱肛(痔核の脱出)②出血痛みの流出、に分かれます。あまり人前に出す場所ではなく、自分で見ることも難しいので、程度により我慢するか、ボラ**-ルを買ってきて使用する事になるようです。概ね誤りではないのでしょうが、多々治癒を遅らせ、時に致命的になることがあるので大まかなところを解説してみます。
  • 1.肛門の解剖と特徴
  • 肛門(肛門縁)とは外から見て穴のあるところを指しますが、その解剖は割と複雑です(図1)。お尻の皮膚(①)は腸(直腸)の粘膜(②)と連続しており、その境目を歯状線(③)といいます。歯状線の上下でその機能、性質は全く異なる事となります。門の開け閉めは主に内括約筋(④)(腸の筋肉と連続しています)と3つの外括約筋(⑤)の輪状筋が行いますが、その周りを肛門挙筋群(⑥)が覆っています(お尻を締めると上に挙がる因になります)。その神経はかなり繊細でガスと便(性状)の区別をつけ、殆ど(?)失敗はありません。またその皮膚は感染に強く傷の治りも早い特徴があります。
肛門解剖図

2.痔核(いぼ痔)

いわゆるいぼ痔は、皮膚或いは粘膜の直下にある静脈叢にできる静脈瘤でいわば血管の塊です。歯状線より上方にできる物を内痔核、下方の物を外痔核といいます。

内痔核は排便時の出血、脱出が主症状で粘膜に覆われているため疼痛は有りません。逆に外痔核は皮膚に覆われているため疼痛、異物感を主症状とし、出血は少なく最初から外に出ている事が多くなります。外痔核は血液が中で固まる血栓化をしていることも多く、その場合はかなり硬く触れます。実際には歯状線をまたがってできる物も多く、症状は混在することとなります。

 静脈瘤が無くても、表面の粘膜とその奥の括約筋をつなぐ線維の脆弱化が主原因(表面の粘膜がずれて脱出しやすい)となる場合もあります。

いぼ痔

  • 3.裂肛(切れ痔)
  • 歯状線と肛門縁の間(肛門管といい括約筋が締める部分にあたります)が、文字通り切れることで、排便時の出血と疼痛がでます。軽い物はすぐ治りますが、縦に裂けた上方に肛門ポリープ、下方に皮垂(見張りいぼ)というたるみができます(これらは自然には治りませんが治療の必要もありません)。このたるみはよく外痔と間違われ外用薬を塗る方が多いのですが、皮膚の変形なので切除しなければ治りません。
  • 慢性的に繰り返すと内括約筋に炎症が及び筋肉の弾力性が失われます。さらに繰り返すと肛門が狭くなり、よけいに切れやすくなるという悪循環に陥ります。
切れ痔

4.痔瘻(あな痔)

歯状線上にある肛門陰窩という窪みより細菌が侵入し、筋肉等の組織がない柔らかい所に膿瘍(肛囲膿瘍という膿のたまり)を形成。皮膚に排膿して、腸と皮膚の間にトンネルを作ったものです。

肛門周囲膿瘍がこの病気の初発症状となることが多いのですが、この膿のたまりは切開して排膿しなければ治りません。外痔核と混同して、薬局で買った薬を塗って悪化させる(薬自体の作用が悪いのではなく、切開を受けるのが遅れる)ことが多い病気です。

痔瘻
  • 5.痔の成因
  • 痔核は静脈瘤ですから、主に血流のうっ滞が原因です。妊娠により子宮が腫大し静脈還流を阻害してできるもの、長時間の座位を続ける職業の人にできるもの等があります。 また、明らかな静脈瘤を形成せずに、粘膜の脱出(いわゆる脱肛)のみを生じるものもあり、これは粘膜、血管の支持組織の脆弱化が原因です。いきみ等の排便習慣が脱出を招くと考えられます。
  • 殆どのいぼ痔はこの二つの原因を含んでおり、その割合により出血を生じるタイプ、脱肛を生じるタイプ、両方生じるタイプに分けられると思います。
  • 裂肛硬い便の排出によって粘膜が切れて生じるものが殆どです(下痢で切れることもあります)。慢性化する事により、より深部の筋肉の損傷、硬化を招き、筋肉の拘縮が起こるため肛門狭窄という状況になります。ご自身の小指より細い便が出るような場合は手術により拡張することをお勧めします。
  • 痔瘻の成因は明らかではありませんが、肛門陰窩(肛門皮膚と直腸粘膜の境目の窪み)から細菌が圧力により押し出され、筋肉の間や腸と骨の間の柔らかい組織に膿瘍を作る肛門周囲膿瘍がその原因と考えられます。裂肛の表面が治り、深部がトンネルとして残ることによってできる粘膜下痔瘻というものもあります。クローン病(粘血便を伴う難治性疾患)等の初発症状であることもあります。
  • 6.痔の治療
  • 痔瘻(肛囲膿瘍)を除き、痔核裂肛は軽症であれば薬物療法を主体に排便習慣の改善により治ることもあります(但し、基本的にどの薬も症状の緩和を謳っているだけで治るとはいっていません)。肛囲膿瘍も切開排膿だけで治癒し、痔瘻に進展しないことも結構有ります。 
    図1の様に大腸の中でも一番太い直腸にためた便を、伸縮性があるとはいえあの細い肛門管から排出するのですから、楽に排便できるような硬度を心がけるべきでしょう練り歯磨きの固さが理想の固さだそうです)。大腸に停滞する時間が長ければそれだけ水分の吸収を受けるので変形しにくい硬い便になります。1日にとる水分量を500ml増やすことで約半数の人の便秘が解消されるという話もあります。食物繊維は消化吸収が悪いのと腸内細菌の働きを良くすることで大腸の通過時間を短くすると言われています。
  • ①痔核(イボ痔)の治療
  • 薬物療法:軟膏、坐薬を肛門に局所投与することにより症状を改善します。症状の強い場合にはステロイド含有のもの、軽症の場合は含有しないものを使う傾向にあります。経口薬(VIT Eや下剤成分を含むもの)を併用することも有ります。痔の薬
  • 注射療法①痔核とその周囲に硬化剤を注入し、血管とその周囲に炎症を起こすことにより固めます。②痔核とその周囲の組織を腐食させ脱落させます。→痔の注射
  • ゴム輪結紮:内痔核の根本に極小の輪ゴムをかけて、腐らせます。マックギブニー法
  • 凍結療法:液体窒素(-200度)を用い、痔核を凍結壊死させます。
  • PPH:痔核を直接触れずに自動吻合器(切除と縫合を一度に行う機械)を用い、脱出する余剰粘膜と痔核に流入する血管を環状に切ることにより痔核を消退させます。
  • 手術:結紮切除術という痔核への流入血管を結紮し、痔核を切除する方法が広く行われています。切除した後の粘膜は縫合しますが、一緒に切除した皮膚の部分は縫合せずに傷を解放したままにします。この解放した傷が肛門の腫れや大腸菌が傷の中に留まることを防ぐ逃げ道になります。数週間で傷は判らないくらいにきれいに治ります。
injection
坐薬
  • ②裂肛(きれ痔)の治療
  • 肛門ポリ-プや見張り疣はいわば裂肛の随伴症状で、薬により治ることはなく(見張り疣や皮垂(余剰皮膚)自体に一生懸命に薬を塗る方をよく見受けますが)、あまり大きくなるようなら外科的に切除します。軽度の裂肛は自然に治癒しますが、難治のものは括約筋の痙攣を伴い痛みも持続します。最終的には肛門狭窄になってきます。
  • 1)薬物療法:軟膏、坐薬を肛門に局所投与することにより症状を改善します。
  • 2)薬物的内括約筋緊張緩和:ボツリヌス毒素注射やニトログリセリン軟膏により一時的な括約筋麻痺を起こし治療します。
  • 3)肛門拡張術:手指により肛門括約筋のストレッチをします
  • 4)内括約筋側方切開:括約筋を部分的に切開することにより筋肉の緊張を取ります。
  • 5)スライディングスキングラフト:慢性的な潰瘍部分を肛門ポリープや皮垂とともに切除し、皮膚をずらして、その欠損部分を覆います。(代わりに皮膚が欠損しますが、肛門周囲の皮膚は上皮化が早いので治癒します。病気の皮膚を切除して、健康な皮膚を移植、健康な皮膚欠損は自然治癒という治療です。)
knife
  • ③痔瘻(痔ろう)の治療
  • 通常、手術以外に治る手だては有りません。
  • 開放術式:トンネルの上皮方向を開放し肛門管とつなげ、周りの不良肉芽(治りにくい組織)を落として新しい組織を露出します。すなわち、基本的に上皮化が早く、感染に強い肛門の特徴を生かし、治りにくい構造を壊すわけです。
  • シートン法:古来伝わるインドの技法(もともとはクシャラ・ストーラという薬品を塗った糸を使用)で、トンネルと肛門管に一本のゴムひもを通し縛ります。そのひもの締め具合、慢性的な刺激によりトンネルの上皮方向を落とします。結果として開放術式と同じ状態になります。(氷の塊に糸を回して下におもりをつけると、だんだん氷が切れて、糸とおもりが下がっていき、やがて落ちる。氷は一旦切れるものの再度くっつき元通りになる。こんなイメージでしょうか。)
  • くりぬき法:トンネルをくりぬき、バイ菌の侵入口である肛門陰窩を縫合閉鎖します。(結果として一回り大きなトンネルを掘ることになりますが、やはり治りやすい組織が表面に出ていることで治癒します)
坐薬無効
  • 7.終わりに
  • 便潜血反応(血便と異なり目で見えない血液を免疫反応で検出する)という大腸癌検診があり、大腸癌やポリープの検出に大いに役立っています。当然痔出血からの血液にも反応してしまいます。”自分は先祖代々の大痔主(痔を患ってる)だから関係無いや”..........果たしてそうでしょうか。痔があるために早期癌はおろか進行大腸癌がだすサインを見落としてはいないでしょうか。
  •  又、過日妊婦さんが痔からの出血のため高度の貧血に陥り、胎児の命に危険が迫ったためやむなく帝王切開にて母子共に一命を取り留め,同時に痔核の手術を行った事がありました。
  • 近年、抗凝固剤という(出血が止まりにくくなる)薬を飲むことにより、心筋梗塞や脳梗塞といった致命的な病気の再発を予防する事は常識になってきました。あなたは、無駄な血を流してはいませんか?
  •  ” 排便の時ちょっと痛いけど最近は血が出なくなったからいいか”..........だんだん細くなってきた便は、自分では慣れてしまい普通と思う傾向があります。自分の小指と比べて下さい。小指より細ければ異常です。(短期間に細くなった場合は直腸癌の可能性もあります)
  •  ”肛門の周りがよく腫れて痛むけど膿が出るとすぐ治るから良いか”..........一度完成された痔瘻は直腸からバイ菌の供給を常に受けています。排膿後硬くなったトンネルを避けて次の出口を求め、新しいトンネル工事が始まっているかもしれません。また、難治性痔瘻の中には癌が潜んでいることも...............
  •  恥ずかしがらずに一度肛門科の門をくぐる事をお勧めします。きっと様々な悩みが解消されることでしょう。